酸蝕症(さんしょくしょう)について
突然ですが、みなさんは「酸蝕症」という病気をご存知でしょうか?
それほど高い知名度ではありませんが、実はむし歯や歯周病に次ぐとても怖い歯の病気です。
もしご自身や家族に症状が出た場合に、すぐ気付いて対処できるよう正しい知識を得ておきましょう。予防法も併せて紹介するので、参考にしていただければ幸いです。
どんな病気?
歯の表面を覆っている「エナメル質」が、何らかの要因によって徐々に溶かされる病気です。
口の中の細菌によって歯が溶かされるむし歯とは、似ているようで症状が異なります。
しかし「痛みが生じる」という点では同じであるため、区別しにくい方が多いのが現実です。酸蝕症の場合は進行とともに、歯の表面が黄ばんだり白濁したりすることもあるでしょう。
また、病気の原因もそれぞれ異なります。
むし歯はミュータンス菌などの細菌が蝕んでいくのに対して、酸蝕症は外部から取り入れた酸性の食べ物や飲み物、体内の酸などが悪さをします。
日頃から食生活に気を付けていれば問題ありませんが、酸性の飲食物ばかり飲み食いしたり、無理なダイエットを行ったりしている方は注意が必要です。
日常生活において心身に負担をかけていないか、これを機に振り返ってみてくださいね。
主な症状
次のいずれかに該当する場合、エナメル質が溶かされているかもしれません。
●全体的に歯の厚みがない。
●先端がギザギザとしている。
●歯と補綴物の境目にスキマがある。
●歯に穴が空いていてズキズキとした痛みがある。
●詰め物や被せ物がよく取れる。
●歯の表面に本来あるはずのツヤがなく、黄ばみや白濁が生じている。
たとえ軽度であっても、放っておくと大切な歯が徐々に蝕まれます。最終的に、歯が脆くなりダメになってしまうでしょう。
審美性だけでなく、機能性も失う恐れがあることを理解しておいてくださいね。
原因について
これまでは、ガラス工場やメッキ工場で発生する酸性のガスを吸うことが主な原因だとされていました。
しかし近年は、食生活の乱れも一つのトリガーになるといわれています。
みなさんは柑橘類やもずく、ジュースやビール、梅酒、赤ワインといった酸性の飲食物を頻繁に口にしていませんか?
挙げればキリがありませんし、中には健康によい食品も含まれているのが事実です。しかし、どのような飲食物も摂りすぎはよくありません。
体によいか悪いかは別として、同じものばかり飲み食いすることは避けましょう。
ビタミンCのサプリや、アスピリンなども過剰に摂取しないよう注意が必要です。
ちなみに酸蝕症は、ほかの疾患がきっかけで起こることもあります。代表的なのが「逆流性食道炎」で、加齢や肥満、ストレスなどが代表的な原因です。強酸性の胃液や消化途中の飲食物が食道へ逆流すると、口腔内に胃酸や酸性ガスが充満しやすくなります。
対処法と予防法
次に紹介するポイントに注意しながら、症状の軽減や予防に努めましょう。
酸性のものを飲み食いしたらうがいをする
過剰摂取を控えることが最善の策ですが、その後の対応も大切なポイントです。量に関わらず、酸性のものを飲み食いしたあとは流水でよく口をすすいでください。ブクブクうがいを行うのが理想です。
酸性になった口の中が中和反応で中性になり、歯が溶けるのを防げるでしょう。食事が終わったら、極力早めに実施するのがポイントです。
よく咀嚼する
唾液の分泌を促すには、咀嚼回数を増やすのが有効です。唾液に含まれるミネラルが酸を中和し、酸蝕症の予防に一役買ってくれるでしょう。
ダラダラ食いを控える
飲み食いを長時間行っていると、中和反応が追い付かなくなり酸性の口腔状態が続きます。
スポーツドリンクなどを、ちびちびと飲み続けることも推奨できません。すぐにうがいができる環境下にないときは、できるだけ水やお茶を飲むよう意識してください。
食生活の改善に取り組む
酸蝕症の原因になりうる摂食障害や逆流性食道炎は、一度罹患すると治るまでに時間がかかります。
適切な治療をうけると同時に、食生活の改善に取り組みましょう。精神的な負担をかけないよう、徐々に対処することがポイントです。
フッ素を塗布してもらう
歯科医院でフッ素を塗ってもらうのも、酸蝕症予防の一つになります。市販の製品を使用しても構いませんが、歯科医院で取り扱われるフッ素の方が高濃度です。
数ヶ月おきに歯科健診を受診し、フッ素の塗布を受けて歯質強化を図りましょう。
今回はここまでです。
酸蝕症の主な症状や対処法について、理解していただけたでしょうか?
ほかの疾患と症状が似ており、患者さま自身での見極めが難しい場合もあります。少しでも異常を感じたら、早めにかかりつけ医へ相談してください。早期発見と治療が、健康な口腔状態をキープすることにつながるでしょう。